もらってください、花宮先輩。〜君の初めてが全部欲しい〜





 ところどころから、「女の喧嘩ってこえ〜」とか「よりによって松井さんを怒らせるとか、高野さん運悪いね」とか「高野さん強いな、やっぱり苦手だわ……」と好き勝手に声が上がる。


 私はその場から動けなかった。


 だって、そんなことじゃ傷つかない、そう言った高野さんの静かな声が、どうしようもなく悲しく寂しく聞こえたから。


 まるで自分のことのように、心がズキズキと痛む。


 
「待って、うちらがいない間に何があったの?」
「奈湖〜、どうしたの?」
「……えっとね」



 トイレから戻ってきた二人は、化粧直しをしていたらしく、ツヤツヤとキラキラとしながら私の席の前の椅子に座った。


 何て説明したらいいのか、けど、とりあえず二人に聞きたいことは。



「松井さんと仲良い?」
「はぁ?アイツだけは無理矢理。性格悪いじゃん」
「ああいうねちっこい女とは関わらないのが一番」
「そっか……高野さんと揉めてたんだよねここで」
「おー!高野さんに加勢したいわ!」
「へ」



 友人一人の声に、私は目をパチクリする。松井さんが苦手だとはいえ、高野さんに加勢なんて意外だ。


 友人は、リップを塗ったばかりであろう唇の端を楽しげに持ち上げる。
 


「うちら、別に高野さん苦手だけど嫌いではないし」
「ハッキリ言う分スッキリするしね」
「……そ、うなの」
「うん。だから、奈湖ももう無理しなくていいからね」
「え」
「バレバレなんだよ、待ちくたびれてるんだけど」



 とてもとても驚く。もしかして友人達は、私がずっと無理をしていたことを気付いた上で、本音を話してくれることを待っていてくれたのかもしれない。


 最初こそ恋愛についてあれこれ思うこともあったが、この子達の心根は温かいもので、私の偏見のせいで気付かなかったんだ。


 相変わらず騒つく教室内、私は友人二人を見つめ、キュッと結んだ唇をゆっくりと開く。



「早紀、彩菜、あのね────」





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