きっと、花宮先輩に出会えなかったら、ずっと仮面を被っていたんだろうな。感謝しかないな。
騒ついた教室の窓際にある自分の席で、先輩にお礼の連絡でもしてみようとスマホをスイスイ弄っていると、教室の後ろのドアが大きな音を立てて開いた。
「高野って奴いる?」
そこには、今朝職員室で落したはずの化粧を再び顔に施し、似たような派手な取り巻きを連れた隣のクラスの女子がいた。
途端に教室の中は静まり返り、私と同じようにスマホを弄っていた高野さんに視線が集まる。
今朝、もっと言葉を選んで注意していたらこんなことにはなっていなかったはずなのに。私は自分のことではないのに、まるで自分のことのように背筋が冷たくなった。
女子達はにやにやと趣味の悪い笑みを浮かべながら高野さんの机の前に立つと、無反応の高野さんに、中心の女子が猫撫で声で話し掛ける。
「ちょっと話があるんだけど。一緒に来て」
「周りの取り巻きが居ないならいくけど」
「……え?」
「一対一ならいくらでも聞くけど、そうじゃないなら悪趣味じゃない?……確か隣のクラスの松井さんだったよね」
高野さんはスマホから視線を上げ、席から立ち上がる。その視線は真っ直ぐ松井さんに向けられた。



