「先輩、どうしたんですか?」
「……ううん、なんでもないよ」
「……ほんとに?」
「うん。ごめんね、俺のことはいい。けど、奈湖はもう自分を卑下しないで」
「えっ」
「自分の正しいを、否定しなくていいんだよ」
背中を一定のリズムで叩かれ、私の沈んでいた心は、徐々に浮上する。
けど、自分の正しいを否定しなくていいって、それじゃあ私は周りと違くなってしまう。
私の不安が伝わったのか、先輩はゆっくりと話を続けた。
「奈湖が助けたその高校生、絶対に救われてる」
「……そうですかね」
「正しい事をした人が痛い目を見るなんて、おかしいことなんだよ。だから、傷付けられた原因が自分にあるなんて思ったらいけない」
「…………」
「もう、過去に縛られて傷つき続ける必要はないんだよ」
フッと心が軽くなった。そうか、過去の自分を捨てたつもりが、本当は縛られていたんだ。
初めてこの事を口にして、肯定されて、やっと許された気がする。先輩は抱き締めていた腕を緩め、私の顔を覗き込むと、優しく微笑む。
「もう、無理しなくていいんだ。自分の気持ちに素直でいいんだよ」



