あの時と同じようにベンチに座り、俯く私に先輩は口を開く。
「奈湖はさ、いろんなことを無理してるように見えるんだ」
「……そうですか?」
「うん。自分自身で、そうしたくてしてるなら俺も別に気にしなかったけど、一緒にいればいるほど違和感がある」
「…………」
「俺達が付き合うきっかけになったのも、奈湖が周りに合わせて恋人を作ろうとしてたのが始まりだしさ」
「……それは」
「どうして、そこまで周りに合わせてるの?いつも苦しそうにしてるの?」
私の頬に、先輩の指先が触れる。
「何が奈湖を、そんなに迷わせてる?」
先輩の指先から、じんじんと熱が伝わって、私の冷えた心を温めていく。
自分で、無理をしてでも過去の自分とおさらばすると決めた。苦しくても、周りに流されるまま居る方が生きやすいはずだと、自分に言い聞かせていた。
こんなにぐちゃぐちゃになった本音を、言葉にしていいの?いつも迷子みたいに彷徨っている私の心を、見せてもいい?
恐る恐る顔を上げると、私を甘やかすような、優しい視線がこちらに向いていた。
「大丈夫だから、聞かせて」
まるで、迷子の手を引くように、私の心をあっという間に先輩は掬い上げる。
私は、自分の本能に従うがまま口を開いた。



