「ダメッ!!」
「うわ!」
「っ、奈湖?!」
私は勢いのままアイスコーヒーを持った男の腕にしがみ付いた。すると、アイスコーヒーがワイシャツにかかる。
先輩は驚いたように目を見開いた。
「やっ、やめてっ!」
「は?!……なんだこのアマっ」
「こんなことして、恥ずかしくないんですかっ?」
「っ」
「若い店員さんイジめて、学生に注意されて、恥ずかしくないのかって聞いてるんです!」
「う、うるせぇっ……!!何だこいつっ」
「先輩にっ、酷いことしないでっ」
正しいことをした先輩を、傷付けないで。
その時、カウンターの裏側から、大柄のエプロンをした男の人が出てきた。私達のただならぬ様子を見てこちらに駆け寄り、男の手を掴む。
私は男の手を放し、気が抜けてふらついた。すると、その肩を先輩が支えてくれる。
「お客様、何をしているんですか」
「なっ……俺は、そのっ」
「うちの店員が注文ミスをしたと聞きましたが、貴方、最初からアイスコーヒーを注文していましたよ?私もカウンターで聞いていました」
「っ!!」
「どうします?これだけ暴れて。警察を呼ぶか、今後一切この店に来ないと言うのなら、今出ていけば見逃します」
「……そ、そうかよっ!」
男は体格の良い店長に怯えたように、自分の荷物をまとめ慌てて店から出て行こうとするが、そんな男の肩を店長が再び掴む。
「あと、うちの店員とこの学生達に何か言うことは?」
「はっ……?」
「何か言うことは?」
「っ……わ、悪かったよ!!」
男は乱暴にドアを開け、逃げていった。一気に張り詰めていた空気が落ち着く。



