そのまま私は体制を崩し、誰かに肩を抱かれる。驚き後ろを見ると、そこには。



「────攫ってもいい?」
「……花宮、先輩」
「しばらく見てたんだけど、ちょっと限界だった」



 突然現れた花宮先輩は、私を優しく見下ろすと、次に冷めた視線を小池くんに向けた。


 小池くんは突然のことに動揺を隠せないようで、狼狽える。



「は、えっ……こんな奴がなんでっ」
「こんな奴なんて失礼だね。それに、君には奈湖はもったいないよ」
「はっ」
「この子、最初カラオケ嫌がってたよね?ごちゃごちゃ喋って誘導して連れ込もうなんて、どういう神経してるの?」
「そ、それはっ」
「まぁ、もうどうでもいいけどさ。言うこと聞きそうとかそんな理由でこの子を手に入れようとしてたなら、今後近づかない方がいい」



 ジリっと、先輩が小池くんに一歩近付く。そして、ネクタイを掴みぐっと引き寄せた。背の高い先輩にそんなことをされ、小池くんは顔を青くして爪先立ちになっている。次に聞こえたのは、血を這う様な低い声で。



「次はこんなんじゃ済まさない」



 ひゅっと小池くんの息を飲む音が聞こえた。そして先輩がネクタイから手を離すと、彼は尻餅をつく。


 先輩はこちらを振り返ると、王子様の様ににっこりと微笑み私の手を引いた。



「行こうか」



 人通りの多い場所で騒いでしまったから、人目が気になった。先輩もそうだったのか、小池くんを残し、その場から足早に立ち去る。