もらってください、花宮先輩。〜君の初めてが全部欲しい〜





 すると、ブラウンの美しい瞳がじいっとこちらを見つめていた。パタパタと傘に落ちる雨音が耳に届く。不意に、先輩の傘を持っていない方の手が、私の頬を優しく撫でた。私は間抜けな声を出す。



「ひぇっ」
「奈湖は重くないし、めんどくさくもないよ」
「せん、ぱい?」
「はじめては捨てるものじゃない。大切に貰ってもらうものだよ」
「……そうなんですか?」
「だから奈湖は、大切にしてきたはじめてを、これからも簡単に捨てたらいけないよ」



 まるで子供に言い聞かせるような、優しいのにどこか強い口調だった。


 私が口を半開きにし、ポカンとしていると、先輩はこっち、と言いながらシャッターの閉まった小さな店を指さす。屋根の下に二人で滑り込み、先輩は傘を閉じた。そして再び口を開く。



「それで、奈湖はどうしたいの?」
「えっ、私ですか」
「周りに何か言われるから、はじめてを捨てたいの?奈湖自身は?」
「私は……」
「うん」



 すうっと深く息を吸う。先輩と話していると、息がしやすい。


 私は、私は────。