「さっき、奈湖が助けてくれて、もう黙ってることなんて出来ないと思った」
「なんで、言わなかったんですか……?」
「俺のせいで奈湖、辛い目に遭ったから」
「そんなことっ」
「────嫌われるのが、怖かった」
そんなこと、あるわけないのに。
────先輩の言葉がしっくりこない。何を言っているんだろう。
確かにあの出来事がきっかけで起きたイジメは辛かった。
けど、私はあの日、先輩を助けたことを後悔していない。恨んでもいない。
先輩はゆっくりと噛み締めるように、言葉を続ける。
「あの日奈湖に助けられて、俺は変われたんだ」
その言葉で、私の心の糸がプツリと切れた。
「嫌いになんて、なるわけない」
私は昂った感情に流されるがまま、先輩の首に腕を巻きつけ、ぎゅっとその大きな身体を抱きしめる。



