不穏な雰囲気に、思わず覗き見すると、先輩女子は顔を真っ赤にしていた。
「アンタなんて顔だけだからっ! 顔意外何もないっ! 笑わない王子に、価値なんてないっ!!」
────王子。
花宮先輩は、周りの女子達から王子と呼ばれていた。私はそれに違和感を抱いたこともなかった。
けど、今ふと思い出す。
あの日、私が庇ったあの人も、王子と────。
気付けば、その場から飛び出していた。そして、二人の間に割込み、花宮先輩の前に立ち、先輩女子に視線を向ける。
背中側にいる花宮先輩は、驚いたような、上擦った声を上げた。
「な、奈湖っ……?!」
「取り消してください」
「っ、な、なによっ」
「例え王子様みたいにカッコよくても、心はある」
先輩女子は後退る。私は言葉を続けた。
「先輩は顔だけじゃない、すごく優しくて、素敵な人なんですっ」
怒りで体が熱くなる。何も知りもしないで、決めつけないで。
先輩女子は、私の言葉を聞き、悔しそうに唇を噛んで走り去っていった。
私は今さら走って来た疲れが出て、息切れする。背中にいる花宮先輩は、ずっと黙ったままだ。
けど、やっと会えた。伝えたいことがたくさんある。
「あの、せんぱ────」
「行くよ」
振り返ろうとしたけど、先輩は私の手首を引いて歩き出してしまう。
靴を履いて昇降口を出て、校門をくぐっても、ずっと花宮先輩は黙ったままだった。
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