先輩はそんな私を見て楽しそうに笑うと、ちょっと待っててと言い残し、2年生の下駄箱に向かう。そして靴に履き替え、私の目の前に再び現れた。



「せっかくだし、奈湖の話しを聞きながら駅まで行こうかな」
「そんな、恐れ多いですっ」
「俺が聞きたいんだよ。それに」



 先輩は昇降口の外を指さす。小雨とはいえ、傘がないとキツイ雨だ。


 そして、私の鞄から取り出した折り畳み傘に視線を向け、緩く首を傾けた。それだけ仕草なのに、普段かっこいいのにすごく可愛く見える。



「今日、傘忘れたんだ。入れて欲しいんだけど……ダメ?」



 先輩にこんなお願いをされて、断る人間なんて存在するのだろうか。私は大きく首を縦に振る。