「っ……こうさか、せんぱい」
「は? どうして泣くんだよ……」
香坂先輩は、私を抱きしめる腕を解き、私の頬に伝う涙を指先で拭ってくれる。
別れた恋人の代わりになるなんて、絶対に香坂先輩が辛いのに。そんなこと、分かってるはずなのに。
出会って日は浅い。なのに、香坂先輩の不器用な優しさや、真っ直ぐな好意を感じる度、その真剣さを身をもって知っていた。
だからこそ、こんな人の想いを中途半端に利用するなんて、私には────。
「ごめんなさい……」
「……速攻返事するなよ。俺が守ってやるから、だから」
「真剣な香坂先輩の気持ちを、踏み躙りたくないんです」
「…………」
「香坂先輩は、誰かの代わりになるよりずっと、素敵な人だから」



