もらってください、花宮先輩。〜君の初めてが全部欲しい〜





 香坂先輩はとても強く、真剣な表情で、けどその目尻は赤らんでいた。


 もちろん、理解はしていた。香坂先輩からの好意も、きちんと感じていた。


 けど、毎回伝えられはしても、私からの返答を求められていないものだった気がする。


 ────けど、今は違う。


 自分の頬に熱が集まり、赤くなったのが分かる。私は思わず視線を落とした。



「か、代わりでいいって」
「不服だが、とりあえず今はアイツの代わりでいい」
「そんなの、無理に決まってるじゃないですか」
「花宮を好きなお前ごと、俺が引き受けたい」



 グッと腕を引かれて、香坂先輩の胸に飛び込む。


 香坂先輩からふわりと制汗剤の匂いがした。花宮先輩よりも硬い胸板に、嫌でも違う男の人に抱き締められているという事実を分からせられる。


 そして、香坂先輩の心臓の音は、驚くほど速かった。


 けど、花宮先輩を好きな私ごと引き受けるなんて……そんなの、香坂先輩が辛い。頷けるわけがない。



「む、無理です。香坂先輩に対して、不誠実すぎます」
「まぁ、奈湖はそう言うよな。けど、弱みに付け込もうとしてる、俺も俺だ」
「え」
「奈湖はアイツを忘れる努力なんてしなくていい。俺の隣で、俺が忘れさせる努力をしてるのを見てろ」
「……香坂先輩」
「大切にする。いつだってお前だけに向き合う。長い目で見て、いつか俺のことを好きって言わせてみせる」



 シンとした保健室に、熱の籠った香坂先輩の声だけが響く。私は、それを黙って聞くことしかできない。


 香坂先輩の想いを、否定なんでできない。



「だから、傷付いたまま俺のところに来い。忘れるくらい愛してやるから」



 私は、この人の手を取っていいの──?