「確かに、香坂先輩は優しくしてくれてますね。ごめんなさい」
「別にいい……けど、教室の前で立ち聞きした会話の内容、アイツに問い詰めたら良かっただろ?仕方ねーとか、そんなくだらない気持ちで付き合ってたのかって怒鳴ってやったらいいんだ」



 香坂先輩の言葉に、私は首を横に振る。



「そんなことできません」
「じゃあ、俺がしてやろうか?」
「やめてください。花宮先輩は、悪くないので」
「……あっそ」



 香坂先輩は、まるで納得していない表情をしているが、渋々頷く。


 もうこれ以上掘り下げられたくなくて、私は香坂先輩に繋がれていた手を解く。そして、床に落ちたタオルケットを拾った。



「私寝るので、先輩はもう教室に行った方がいいですよ」
「…………」
「ほら、内心悪くなりますよ。……いや、もう手遅れ?」



 立ち上がるよう軽口を叩き、香坂先輩肩を軽く押す。しかし、びくともしない。


 それどころか、さっきまでとは雰囲気が変わり、何故かこちらを射抜く様に見つめていて、私はびくりと動きを止めた。


 な、なに? 私、怒らせる様なことしちゃった……?



「奈湖」
「な、なんですか?」
「アイツのこと、忘れたいと思うか」
「…………」
「忘れなければと思うか?」
「……は、い」
「そうか、それなら」
「それなら……?」



 ふわり、薄く開いた窓から風が滑り込んできて、香坂先輩の前髪を揺らす。




「あいつの代わりでいい。俺が忘れさせてやる」