「──奈湖、何かあった?」
「えっ?」
「最近ふとした時に、考え込んでるように見えるから」
「……そんなこと、ないですよ」
合わせた視線が、あまりに真剣なもので、全てを見透かされそうになる。
思わず逸らして下を向くと、頭の上に先輩の大きな手のひらが乗った。
髪の毛を梳くように撫でられ、やがてその手は移動し、私の頬に触れる。
「いつでも俺は奈湖の力になりたいと思ってる」
「…………」
「奈湖には、幸せでいてほしいから」
花宮先輩の優しく穏やかな声は、私の心にじんじんと浸透して、それと同時に、とてつもなく大きな感情の波が襲ってくる。
────もうダメだ、限界だ。
そう思った時には、下を向いたまま、私の目からはほろほろと大粒の涙が零れ落ち、足元にパタパタと落ちる。
何でそんなに優しくするの?
仕方ないなら、ここまでしないで欲しかった。こんなにも私を好きで、大切なふりなんて、して欲しくなかった。
私の初めてなんて、先輩に全部全部あげる。
だけど、それだけじゃ足りないくらいに、返しきれないくらいに、先輩は私に────。
「せ、んぱ……」
「奈湖? 泣いてるの?」
困った表情で抱きしめられそうになった瞬間、私は花宮先輩の胸を押す。
今、言わなければならない。そんな気がするの。
「花宮先輩……お別れしましょう」
もう、私の沢山の初めては充分貰ってもらえた。
そして、先輩も私に、沢山のものをくれたから。
「もう、もらえません」



