「っ〜〜、酷いです」
「一人で帰れそうだな。送ってやりたいとこだけど、これからバイトだから無理なんだよ」
「香坂先輩、バイトしてるんですか……?」
「この前から、駅前のラーメン屋で。少しでも家に金入れて、親のこと楽させてやらねーと」



 そっか、香坂先輩が血の繋がらない父親からの暴力を打ち明けるということは、きっと両親は────。


 私はあの時、香坂先輩の怪我を見て動揺していたからそこまでの考えに及ばなかった。けど、香坂先輩はそれをきちんと理解して打ち明けたんだ。きっと、とても勇気がいることだ。


 頑張ったんだな、香坂先輩。



「……そうなんですね、偉いです」
「今度食いに来いよ。奢る」
「餃子つけていいですか?」
「遠慮ねぇな」
「……香坂先輩、ありがとうございます」
「あ? 当たり前だろ。じゃあな、奈湖」



 香坂先輩は片手を上げ、人混みの中に去っていった。


 酷く落ち込んでいた気持ちが、香坂先輩のおかげで少しだけ落ち着いた。


 ゆっくりと立ち上がると、頭はまだ少し痛むけどふらつかない。冷えピタもとりあえず外そう。これでやっと帰れる。
 

 駅に向かって歩き出そうとすると、ポケットのスマホが振動する。確認すると、画面には花宮先輩の名前が。