「こんなところで休んでるだけで良くなるわけねーだろ」
「香坂先輩……なんで」
「あぁ? なんでって、お前もしてくれただろ」
香坂先輩は、何頭のおかしなこと言ってるんだと言わんばかりの視線をこちらに向けてきた。
お前もしてくれた? ……あぁ、香坂先輩が屋上で手負の獣状態の時のことか。
「んなことより早く飲めよ。多分熱中症になりかけてる」
「あ、はい、ありがとうございます」
言われるがまま、スポーツドリンクを飲む。すると、身体が水分を欲していたのか、みるみる楽になっていった。
そんな私を見て、香坂先輩はふっと表情を緩める。
「落ち着いたか」
「はい。ありがとうございます」
「礼はハグでいい」
「しません」
「ちょっとくらい良いだろ?ほら、ぎゅっと」
「ダメって言ったらダメです」
「なんだよ、弱ってるとこ付け込もうとおもったのに」
悪戯っ子のような表情で両腕を広げられ、隣に座る香坂先輩からバッ距離を取る。
お礼がハグだなんて、一瞬の隙もないな……。しかも、こんな人通りの多い場所で。
ジト目で見ると、先輩は私の様子なんて気にも止めていないようで、相変わらず口角を上げている。
「確かに、少し体調は悪かったですけど」
「違う」
「え?」
「泣いただろ」
「…………」
「目、腫れてる。どうしたんだよ」
ふと、大きな手がこちらに伸びてきて、男らしいカサついた指先が私の目尻に触れる。



