私は教室のドアを開けることができなかった。先輩、なんで? 連絡をくれなかったのに、なんで広瀬先輩と二人でいるの?



「花宮は、もう誰とも付き合わないのかと思ってた」
「それは俺も同じ」
「だったらなんで? なんであの子と付き合うことにしたの?」



 ばくばく、心臓がうるさい。先輩の様子が、他の女子に向けるような冷たいものではない。心を許しているような、穏やかな声色だ。


 広瀬先輩の言葉の後、少しの間が空く。


 ────そして。



「……仕方なかったんだよ」



 その言葉で血の気が引いた。


 あぁ、ダメだ。これ以上ここにいたら、聞いたらダメだ。


 そう思い、私はふらりと先輩の教室を後にした。




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