「高野さん、花宮先輩の元カノって誰だか知ってる?」
「……知らない」
「いや、知ってるよね? うわ、嘘下手」
「知ってどうするの?」
「別に、どうもしないけど……知りたくなっちゃうじゃん」
「……はぁ」



 校舎に入り階段を上りながら、高野さんは本日二度目の溜息を吐く。そして、気まずそうに口を開いた。



「……風紀委員の、広瀬先輩」
「え」
「ほら、だから嫌だったのに」



 広瀬先輩は、冷静沈着でモデルのようなスタイルの、クールビューティーな二年生だ。


 ま、まさか……同じ委員会の人だったなんて。気まずい。


 というか、本当に可愛い。花宮先輩の元カノ。私なんて、見ず知らずの他人から普通と噂されるちんちくりん具合だし……。


 徐々に落ちていく私の雰囲気を察したのか、音楽室に着き、ドアを開ける前に高野さんはこちらを振り返り口を開いた。



「顔じゃないんでしょ」
「そ、そんな真顔で……」
「そんなこと関係なしに、小森さんは素敵だから」
「えっ」



 高野さんは固まるわたしを他所に、音楽室に入っていってしまった。


 まさか、そんなことを言って貰えるなんて思ってもみなかったから、わたしの顔は徐々に熱を帯びていく。


 高野さんは少なくとも、私のことを認めてくれているってことだよね? それがとても嬉しくて、さっきまでのしょぼくれた気持ちが飛んでいってしまった。


 それに、昔は昔、今は今だもん。


 例え、広瀬先輩がとても可愛かったとしても、今の先輩の彼女は私だ。なにも気にすることはないはず。




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