もらってください、花宮先輩。〜君の初めてが全部欲しい〜




 どう反応していいのか分からなくて、なんとなく居心地が悪い。


 というか、この前に引き続き授業サボっちゃった。今から行けば怒られず、注意くらいで済むかも……。



「じゃ、じゃあ私、もう行きますね」
「…………」
「上手くいくことを祈ってます。どうしようもなくなったら、花宮先輩も一緒でいいなら話し聞きますね」
「なんでアイツも一緒なんだよ」
「あ、そういえば香坂先輩、不良なのになんで学校サボらないんですか?」



 屋上のドアを開きながら、私は香坂先輩を振り返り、気になっていた質問をする。


 すると、香坂先輩は驚いたように目を見開いた。



「学校サボったら、卒業できねーだろ。俺はちゃんとした大学行って就職したいんだよ」
「…………え?」
「授業にも遅れるだろ」



 な、何それ……。


 なんでそこだけはグレずに真面目なの……。


 私は堪えきれずに吹き出した。そんな私を見た香坂先輩は、不機嫌そうに眉間に皺を寄せる。



「なんだよ、何がおかしい」
「いやっ……なんかギャップがすごくて……意外に真面目でっ……ふふっ」
「……奈湖」
「あー、面白い。じゃあ香坂先輩、その調子で自分らしくですよ」



 目を大きく見開き、ポカンとした香坂先輩を置いて、今度こそ私は屋上を後にする。


 屋上とは違って、ひんやりと涼しい階段をパタパタと下りながら、私は香坂先輩がもう痛い思いをしないように、ひっそりと祈った。
 

 だから知らなかった。




「なんだよ、あの顔。笑うとめちゃくちゃいいじゃねーか」


「……奪いたいな」
 
 

 真夏の熱に浮かされた、香坂先輩の独り言を。




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