もらってください、花宮先輩。〜君の初めてが全部欲しい〜





「ガタイが良くて目つきが悪いって理由で、喧嘩をふっかけられて、やり返せばやり返すほど、殴った手は痛む」
「香坂先輩……」
「周りが怯えて俺から離れて、だったら離れていった奴らの想像通りの奴になってやろうって、髪染めて、喧嘩して、殴って殴られて」
「…………」
「そのうち感覚が鈍くなって、痛いことが当たり前になって、徐々にそれさえ感じなくなってた。なのに」
「…………」
「お前が、あの日、俺のことを助けたから……だから俺は」




 香坂先輩は、自嘲的な笑みを浮かべる。
 

 香坂先輩にとって喧嘩は日常だった。私のしたことは、余計なお世話だったのかもしれない。


 誰だって殴られ傷付くのは怖い。けど、香坂先輩にとっては、その感情は消し去った邪魔なものだった。きっと、思い出したくない────。



「花宮も、俺と同じだった。周りの想像通り、望まれた姿で生きにくそうに生きてた」
「…………」
「けど、今は違う。変わったんだ。それじゃあ、俺はいつまでこれを続ければいい。アイツが変われた要因がお前なら、そんな奴に先に出会えてアイツはズルいと思った」
「香坂先輩」
「痛いのも、周りからのレッテルも、その通りに動く自分も、もう嫌だって。お前が気付かせた」
「……違います。いつか、きっと香坂は自分で気付いてました」




「こんなもん持って来やがって。もう、どうやって痛みを忘れたらいいのか、分からない」



 私が持ってきた袋が、先輩の手から地面に落ち、中身が広がった。