「ふっ……ククッ……ははは」
「え?ど、どうしたんですか」
「お前、本当にお人好しだな」
「……だって、怪我が」
「お前、絶対花宮に俺には近付くなって言われてるだろ。馬鹿な奴」
香坂先輩は、相変わらず楽しそうに笑っていて、その表情が子供のようで、私はなんとなく拍子抜けする。
この前のように、無理やり迫られるかもしれないと勝手に思っていたけど、香坂先輩にその気はなさそうだ。
掴まれた手首が離され、私は少しだけ香坂先輩と距離を取る。
今日も今日とて天気が良く、気温も高い。屋上は、日陰にいても薄らと汗をかくくらい暑かった。
そのとき、授業開始のチャイムが鳴り響いた。私は焦って立ち上がり、ドアに向かう。
「それじゃあ香坂先輩、私行きますね」
「…………」
「ちゃんと絆創膏貼って────」
そう言って振り返った時、香坂先輩は腫れた頬を抑え、痛みを堪えるように目を閉じていた。
私は思わず脚を止める。
「え、痛いんですか?」
「痛ぇ」
「ちょっと見せてください。保健室に」
しゃがみ込んだままの香坂先輩の前に膝をついて目線を合わせ、顔を覗き込む。
香坂先輩は下を向いたまま動かない。



