「香坂にはもう関わったらいけないよ。出来るだけ避けて、もし絡まれそうになったらすぐに連絡して」



 先輩の言葉を、脳内で何度も繰り返す。

 
 けど今、先輩との約束を破ってしまいそうだ。


 だって────。



「……えーー、めちゃくちゃ怪我してる」



 香坂先輩事件から一週間、私はあれから平和に過ごしていた。


 そして、休み時間トイレに行き、教室に戻ろうとしたときのことだった。


 トイレの脇にある階段を気怠げに上る香坂先輩を見つけてしまい、私は思わず小さくなって隠れる。


 二年生の階に行くのには、一年生の階を通る必要がある。まぁそれにしても遅刻だけど。今は一限目終わりだ。


 隠れながらも香坂先輩の様子を伺うと、口の端が切れていて、尚且つ頬が腫れている。しかも治療をした形跡もない。



「……手負の獣感がやばい」



 気のせいか、今まで出会った中でも雰囲気がダントツ恐ろしい。その辺で喧嘩してからきたのかな?怖すぎる。


 けど、怪我って痛いよね。どんな人間でも。


 花宮先輩が言うには、不良なのに比較的学校に来てるみたいだし、痛かったら授業どころじゃないよね?多分……。


 
「……しかたないよね」



 私は香坂先輩の後を追って階段を上り、香坂先輩が二年生の教室ではなく屋上に入って行ったのを見届けると、その場を後にした。