雰囲気を味わう間もなく一瞬で離れ、私は先輩の顔を再び覗き込む。


 先輩は真っ赤な顔をして、へにょりと眉を下げる。あれ?さっきよりも困った顔……?



「奈湖が、俺のこと好きって言ってくれた……しかもキスまでしてくれた」
「はい。大好きなのでキスしちゃいました……」
「うわー、ほんとどうしよう。嬉し過ぎて泣きそう」
「……先輩が泣くと、私も悲しいので嫌です」
「そっか、なら泣けないなぁ」



 花宮先輩は照れたように、嬉しそうに微笑むと、再びむぎゅっと私を抱き締める。


 先輩の胸に擦り寄ると、心音が少しだけ速い。喜んでもらえて嬉しい。先輩、好き。


 そう思うとこちらまでドキドキして熱くなって、なんだか抱えきれないくらい、どうしようもない気持ちになる。


 落ち着きたくて、私はあわあわと口を開いた。



「先輩、もう香坂先輩のことは平気────」
「こーら、奈湖」
「へ」
「俺に抱きしめられてるのに、他の男の名前を出さないで」



 人差し指で唇を塞がれ、次に柔らかな唇で蓋をされる。そのじわりとした熱に溶かされそうになっていると、どういうわけかペロリと唇を舌先で舐められ、肩が跳ねる。


 え?な、なに?


 動揺する私を他所に、先輩はとろけるような王子様スマイルを浮かべていた。



「うん。はじめて奈湖にすきって言って貰えたし、もう少し欲張りたいな」
「せ、先輩、そろそろ教室に」
「いい子だから、出来るよね?奈湖」
「ひ」
「はじめて、大切にもらってあげるから」



 逃げようとしたけど無理だった。


 キスのその先、大人のキス。先輩に全部もらって欲しいけど、容赦がなさ過ぎた。


 遠くで生徒達のざわめきが聞こえる。



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