もらってください、花宮先輩。〜君の初めてが全部欲しい〜




「や、やめてください」
「……お前、花宮の女だろ」
「女……言い方がちょっとアレですけど。そうです、付き合ってます」
「変わったんだな、アイツ」
「えっ」



 ────思わず振り返る。


 すると、至近距離でこちらを見下ろす香坂先輩と視線が交わった。



「嫌なことも嫌と言わず、周りに群がる人間の期待に何食わぬ顔で答え続けてたアイツが」
「……だから、なんですか?それはもう先輩から聞いてます」
「お前のその人助け精神が、花宮を変えたのか?」
「え?そんなこと」
「ずるいな」



 香坂先輩が纏う空気が変わった。


 年齢よりも大人びた顔付きから、こちらに向けられていた凶暴な雰囲気が抜ける。そして気付いた、この人顔が良い。恐怖が先行しすぎて、多分誰もそのことに気がついていなさそうだ。


 前髪の隙間から見える、キリッとした涼しげな目元が色っぽい。花宮先輩に負けず劣らずの高い身長に、筋肉質な男らしい分厚い身体。ボコリと浮き出た喉仏。


 そんな男に閉じ込められてしまった、私。


 私は自意識過剰な人間ではないと思うけど、この状況は明らかにやばい。防衛本能が働き、香坂先輩の身体をグッと押すが、ビクともしてくれない。



「離れてくださいっ!!」
「嫌だ」
「な、なんでっ」
「俺にしろ」
「へっ」



 呆気に取られた。何をどうしたらそんな考えに行き着くんだ。


 香坂先輩はそんな私の手首を取り、至って真剣に言葉を続ける。


 
「お前を気に入った。悪いようにしない。だから俺と付き合え」
「悪いようにしないって……無理です。私は先輩と付き合ってるので」
「奪えば関係ないだろ」



 掴まれた手首に力が込められる。微かな痛みが私を逆に冷静にした。