どうにもこうにも～出会い編～

「では石原さん、おやすみなさい」

「おやすみなさい」

　ドアが開いて西島さんは駅のホームに足を踏み込む。

「西島さん」

　彼の背中を見送りながら、何かもう一言言いたくなって彼の名前を呼んだ。でも何を言いたいのか自分にも分からなかった。私はいつの間にかドアの前に立っていた。彼は私の声に振り返る。

「どうしました？」

「あの…」

　まごついているうちに電車が発車する合図のベルが鳴り出した。「黄色い線の内側に入らないでください」というアナウンスが流れているのにもかかわらず、西島さんは私の言葉を聞き逃すまいとでもするかのように、線の外側に踏み込んで少し身を乗り出していた。


「今度、晩酌ご一緒してもいいですか？」


　言い終わるか終らないかといううちに、ドアが閉まってしまった。電車はゆっくり走り出す。西島さんは右手を上げて、微笑みながら短く何かを言ったようだった。電車が加速するにつれて、西島さんはどんどん遠くなっていく。

駅員さんが、「お客さん危ないですよー」と言っているのがかすかに聞こえた。