「よお」
靴を履き替えていると、俯いた頭の上から大好きな声がした。
びっくりして、思わず肩が震える。
「うわ、びっくりしたぁ!まだ残ってたんだね」
笑顔でおどけてみせる。
大丈夫、普通に、普通に。
「私日直だったんだぁ」
「知ってる。だから待ってた」
いつもより固い、彼の声。
表情も真剣で、少し怖いほど。
「え、何?何かあった?」
おどおどと、聞く。緊迫感。怖い。
「ちょっと、話がある」
「いいよ、何?」
「ここじゃダメだ。帰りながら話そう」
そう言って、先導するように歩き始める徳永くん。
私は制服の胸元をぎゅっと掴んだ。
胸が苦しくて、辛い。
ああ、恋って、こんなに切ないんだ。
こんな気持ち、知りたくなかった。
報われないと、分かっていたから。
「ーー春日、俺、何かしたのか?お前が嫌なこと」
私の前を歩く徳永くんが、川縁に来た時に振り返って聞いてきた。
真っ直ぐに私を見る眸。
少し不安そうに揺れて、でも逃してくれないような強い意志を感じる。
私は慌てて首を横に振った。
「そんなことないよ!
えっ、何でそんなこと…」
とぼけたけど、心当たりはしっかりある。
最近は、ほぼ避けてたし。
「じゃ何で、俺を避ける?」
「さ…けて、なんか…」
眸を逸らし、横を向いてしまった私の肩を、徳永くんの両手が強く掴んで向きを変えられ、視線を合わせられる。
「なっ、何して…!」
「こうでもしないと、お前、俺の眸を見て話さないだろ⁉︎」
怒気を含んだ声にビクッと肩を震わせると、ほんの少しだけ手の力が緩んだ。
でも、身体を捩っても、徳永くんは逃してはくれなかった。
「何でだよ⁉︎何でっ………」
苦しそうに言いながら俯く徳永くん。
私は驚きと不安でオロオロしてしまって、何かを言いたのに言葉が出ない。
「ーーー………… 」
暫くの沈黙の後。
彼は、俯いたまま、ポツリと何かを言った。



