「あっ、ごめんそんなつもりなかったんだけど!」


さっきよりも赤くした顔で勢いよく否定する木崎くんにちょっとだけムッとする。何もそこまで否定しなくていいのに。勝手に勘違いした私が悪いけれど。


「いいよ、私が勝手に勘違いしただけだもん」

「ごめん。ただずっと一緒にいたいって気持ち伝えたかっただけなんだけど。こんな初っ端からプロボーズ紛いなこと言われたら重く感じるよね」

「え?」


思っていたものとは違う反応に思わずパチパチと瞬きした。てっきり痛い勘違いに引かれるかもと思っていたのに。


「でも、ずっと一緒にいたいのはほんと。だって俺らお互い5年間経ってもこうやって想い残ってたんだからこの先も心配することなんてないじゃん?俺喧嘩したってすぐ仲直りしたくなるくらい好きな自信あるもん」


木崎くんがそっと私の手を掴んで、何も無い左手の薬指を撫でる。

そして唇を緩ませて、


「───だから正式なプロボーズは俺がアシスタント卒業して一人前になった時にするから、杏寿はそれまで待ってて?」


左手の薬指に誓いをたてるように口付けて、首を少し傾けて笑った。


·····やっぱり私だけが翻弄されてる気がする。このタイミングで名前で呼んでくるとこだってずるい。



「じゃあ一人前になったら、一番最初に私の髪全部やってくれる?そしたら真崎さん指名するのやめて伊澄くんを永久指名する」


仕返しとばかりに名前で呼んでみれば、伊澄くんはまたもや両手で顔を覆ってしゃがみこむ。

その姿がどうしようもなく愛おしくて、私も一緒になってしゃがみこむ。

視線がかち合って、2人して赤い顔をしたまま笑いあう。


まだまだ完全に大人になりきれてない私たちだけど、こうやって2人でこれからも笑い合えたなら、これから先訪れる些細な変化も大きな変化も、乗り越えていけるような気がした。



『セカンド・ファーストラブ』本編完結