食堂の白井さんとこじらせ御曹司

「それより、自己紹介はじめようか。遅れて来た二人は飲み物頼んで。飲み放題だから、ここに書いてあるの全部」
 飲み放題。
 ふふふ。ごちそうになります。
 眼鏡をはずしているので、メニューは机の上ではなく両手で持って目の前に持ってきてみないと読めません。
 そうこうしてる間に、自己紹介が進んでいたようで。
「次は何ちゃん?」
 とんとんと、隣に座る菜々さんが腕をつついた。
「あ、結梨絵です。初めまして。えっと、モスコミュールを飲もうと思います」
 あ。
 男性陣がぷっと笑いました。
「す、すいません、メニューを考えていたので」
 と言って口を押える。
 これじゃぁ、男性陣に興味がないと言っているようなものです。自己紹介を聞いていなかったのがバレバレです。
 合コンに来た女がそんなんじゃぁ、菜々さんの立場が……。
「え、っと、皆さんは何を注文したんですか?」
 興味があるふりをするのは、質問するのが一番だって、偉い人が言ってたような気がします。
「ああ、僕たちは、全員仲良く、とりあえず生」
 一番遠く離れている席の男性が答えた。
「私はとりあえずソルティドック」
「とりあえずウーロン茶」
 菜々さんを挟んで隣の女性が答えた。
 あ、いい人です。
 なんか私がぼけちゃったのに、場を盛り上げようとしてくれます。菜々さんのお友達ですよね?みんないい人。
 で、初夏ちゃんが丸山君を狙ってるんでしたよね。でも、誰が誰?自己紹介を聞いてなかったから全然分かりません。
 えーっと、とりあえず、菜々さんの知り合い……元カレなのかなんなのかよくわからない人だけは、間違いなく丸山君とは違いますよね。
 というわけで、目の前に座ってる菜々さんの元カレ(仮)さんと話をしてれば問題ないはずですね。
 ちょうど、一番端っこ同士ですし、不自然はないはずです。
 と思ったけれど、菜々さんや男性側の一番遠い席の人が上手に気をまわして会話を進めてくれるので、話を振られた時以外はもぐもぐごくごくと、食事をすすめております。
「はー、この魚おいしいな、初めて食べた」
 同じように箸を動かし続けている菜々さんの元カレ(仮)がちょっと驚いたような声を上げました。表情はよくわかりません。
 眼鏡をかけていないので顔はぼんやりしか分からないのです。