食堂の白井さんとこじらせ御曹司

「服装は……いっか。うん、なんかこれだけかわいいと、服装とのギャップがまたいい。新鮮」
 新鮮とはいえ、菜々さんに恥をかかせたくないわけで。
「少し待ってて。ロッカーにリュック置いて、カバン変えてきます」
 ロッカーの中には、休憩時間に売店に買い物に行くようの小さなカバンが入っています。大きな黒いリュックよりはましなはずです。
 それから、寒くなったときに羽織るための長袖のシャツがあります。
 Tシャツの上にシャツを着るだけでも少しだけ上品になるはずです。それから、ジーパンの裾をロールアップで足見せ。
 うん、少しはあか抜けたはず……だと思います。
「お待たせしました、菜々さん」
「おー!結梨絵、素敵。ちょっとした変化なのに、いけてる!へー、そうか。ジーパンのロールアップかぁ。うん。そっか」
 菜々さんが嬉しそうな顔をしている。
 ……たぶん。
 眼鏡をはずしているので、表情はぼんやりして見える。
 ……いえ、正直なところ、表情どころか顔もよく見えません。服装と髪型を変えられたら菜々さんを見つけることはできません。
 裸眼の視力は0.02なので。

 菜々さんに連れられて、居酒屋へ。すでにほかのメンバーは集まっていたようで、居酒屋の入り口で予約した人の名を告げると席に案内されました。
「遅くなってごめんなさい」
 席には女子二人と、スーツ姿の男が3人。ラフな格好の男が2人座っていました。
「今、飲み物注文して、これから自己紹介始めるところ。ちょうどよかった」
 中央に座っているスーツ姿の男の人がメニューを菜々さんに差し出します。
「げ、」
 メニューを受け取り席に座ろうとした菜々さんが、のどの奥から声を出す。
 げ?
「げ、……なんでお前が」
 一番手前に座っていたスーツ姿の男が、菜々さんと同じように声を上げました。
「いや、そっちこそ、なんでここに……」
 どうやら、こういう席では会いたくない知り合いだったようです。
 うん、元カレとかね。そういうのありますよね。
 深く突っ込まないでおいたほうがいい案件ですよね、きっと……。
「え?何?二人は知り合いなの?」
 メニューを渡した男が触れないでいい案件に触れました。
「あ、まぁ……」
 と、菜々さんが言葉を濁し、スーツ男が話題を変えた。