「……っ……あっ、」
どうしよう、なんて言うんだっけ。
『はい、喜んで』
そうだ。たったそれだけのセリフなのに、乾いた喉が張り付いて思うように声が出ない。
そのせいで、少し落ち着いていたと思っていた緊張が再び込み上げてくる。
どうしよう。
どうしよう。
言わなきゃ、いけないのに……。
視界の端にチラついて見えたたくさんの観客。
私が何も言わないから、何かあったのかとざわざわしているのがわかる。
最悪だ。
ここまでせっかく、水牧くんが連れてきてくれたのに───。
「あー、そうだったね」
え?
突然、笑いながら、観客席に聞こえる声量でつぶやいた水牧くん。
そんなセリフはなかったはず。
ぽかんとしている私をよそに、彼は続けた。
「キミは誰よりも美しくて、誰よりも素直じゃない女性だ」
「えっ、」
もしかして……水牧くんの、アドリブ?!
水牧くんがこちらに笑いかけた瞬間、とつぜん、彼の長い手がこちらに伸びてきて。
ものすごく一瞬だった。
身体が宙に浮いて。



