「袖からまっすぐ歩いて舞台の真ん中。そこまで頑張って歩いて。待ってるから」
『待ってるから』
その一言にじわっと目に熱が集まる。
「できなくても無理でも、行くぞ。美乃里ちゃんの代わりなんていねぇんだから」
ポンと優しく背中を叩いてもらって。
その拍子で足が一本前に出る。
動いた。
まだ、手は少し震えているけれど。
その手を水牧くんに優しく引かれながら、ゆっくりと私は舞台袖へと戻った。
もう、ほかのメンバーは表に出ていて、袖には私たちふたりとスタッフだけ。
「……ちゃんと、待っててよ」
反対の袖へと向かおうとする水牧くんのタキシードの裾を思わず掴まえる。
「ちょ、美乃里ちゃん……」
「っ、」
本当は、今、ひとりにしないで欲しい。
そばにいて欲しい。
「そんな可愛いことされちゃったら、俺、全員が見てる前でチューでもなんでもしちゃうけど」
「っ、はっ、それはやめてっ!」
チューって、あの観客席にはパパや柚巳たちもいるんだから!
「ふはっ、それでこそ美乃里ちゃんだ。待ってるから」
そう言って柔らかく笑った水牧くんは、私の頭に優しく手を置いてから、
行ってしまった。



