「うぅ……」
「美乃里ちゃんっ」
っ?!
後ろから聞こえた声に肩が大げさに跳ねる。
ゆっくりと後ろを振り返れば、オフホワイトを基調とするタキシードを着た水牧くんが、
こちらに駆け寄ってきて私の肩に優しく手を置いた。
「……美乃里ちゃん、震えて……」
目を見開いたまま顔を上げた水牧くんからとっさに目を背ける。
「無理かも、ごめんっ」
「え?」
『俺の顔に泥塗ったら許さないから』
初めてちゃんと話したとき、彼にそんなことを言われたのを思い出す。
ごめん、水牧くん。
「怖い……私にはやっぱり無理だよ。優勝なんて、できないっ、あの時みたいに、大失敗しちゃう…」
「あの時って…………あっ、」
「水牧くんと月本さん、そろそろスタンバイお願いします」
スタッフさんが私たちの名前を呼ぶのが聞こえても、全然動けない。
「はい!今行きますっ!美乃里ちゃん……」
「無理…足、動かないの……ごめん、水牧くん、私っ、」
っ?!
声も震えたままそう言った瞬間。
フワッと空気が動いたかと思うと、優しく引き寄せられて。
体が水牧くんの甘い香りに包まれた。



