「男性陣のみなさんは反対の袖からの登場になりますので、移動お願いします」

スタッフさんの指示でミスターファイナリストの方たちがぞろぞろと動き出したとき、

私もみんなの輪から少し離れ後ろの方へ移動する。

ダメだ……どうしよう。

はじまるっていうのに。

心臓が今にも飛び出しそうで息苦しい。

「美乃里ちゃん?」

三年生の誰かから名前を呼ばれたけど、それに答える余裕もなくて。

「……す、すみませんっ、ちょっと、お手洗いにっ」

「えっ、今?!その格好で?!」

驚く声を無視して、私はステージの袖から離れた関係者用通路へと飛び出した。



無理だっ。
やっぱり、無理だよ。

あと数分もすれば、あの舞台に立たないといけない。

わかってるのに。

足が全然動かなくって。

露わになった肩も、手も、冷たい。

どうしよう……このままだったらたくさんの人に迷惑かけちゃう。

なのに、手の震えも足の震えも止まってくれなくて。

小さい頃の記憶が蘇る。

私を囲む人たちみんなが、私のセリフを待っていて。

袖からコソコソざわざわと声がして。