「おかえり、シルフィス」
 カウンターの中から、グラマラスな美女がシルフィスに微笑みかけた。
 女の声に、男ふたりも顔を上げた。ひとりが陽気に片手を上げる。
「よお、シルフィス。『黒白の書』は見つかったかい?」
 もうひとりの男は、軽く目を見開いた。
「黒白……って、あれか? ──ディアナム王子が恩知らずにも盗んで逃げた、凄え賞金のかかってる魔法書……」
 相手が頷くのを確認して、男は、あはは、と笑い、笑ったままの顔をシルフィスに向けた。
「おまえ、そんな大物を狙っていたのか。で、見つかったのか?」
「残念だけど、まだ。──マスターは、上?」
 男たちの揶揄は軽く受け流し、シルフィスはカウンターの美女に尋ねる。
「ええ。ハザンもいるわよ」
 という返事に、へえ、と呟き、階段を上る。
 僕とハザンが呼ばれたのか。……それなりに難しいお仕事かな。
 階段を最上階の三階まで上り、いちばん奥のドアをノックする。