「で? みくるちゃんは
 婚姻届けを、書いてくれたわけ?」



「それは……まだ……」

あいつ、書きたがらないし……




「一回くらい『氷牙さん、好き』って、
 言われたんだよな?」


「それも……まだ……」

みくるは俺と目が合うと、
気まずそうに逸らしたりするしさ……




なんか
綺月に質問に答えていたら、

怒りよりも惨めさが増して
悲しくなってきたわ。





「氷牙ってさ
 ファンを虜にする術は持ってるのに、
 好きな子にはダメダメなんだよなぁ」




大きなソファーに
長い足を全乗せして、くつろぐ綺月。




いつもの俺なら、
魔王モードで吠え返すのに

そんな気力すら起きないのは、



今日の昼休み。


電話越しに

総長とみくるの想像以上に太い関係に、
気づいてしまったからで……



今もみくるは、総長と二人で
映画に行っているんだと思うと

完敗に似た切なさに
襲われるからで……





綺月にからかわれると
わかっていながら


「俺はさ
 結婚相手を金で買い取るヤバイ男って、
 思われているのかもな」


弱っちい声を
吐き出さずにはいられない。