「俺を手放すか、俺を掴むか、今ここで優菜先輩が決めて。俺を手放したくないなら、優菜先輩から俺の腕の中に飛び込んで。猶予はカウント3だけ。もし来ないなら、俺は一生優菜先輩の近くには行かない。いい?カウントするよ」



『さん』



『に』



『い・・・』

私は斉藤くんの胸に飛び込んだ。頭で考えるより先に行動していた。

斉藤くんを手放してはいけないんだって。好きなんだって。

「ほんっとに、優菜ってさ。俺の手を焼かせすぎなんだよ。昔と逆転してんだよ」

そう意味の分からないことを呟いた斉藤くんは、広げていた腕を私にギュッと巻き付けてきた。

「ずっと俺の側にいて。俺、もっと好きになってもらえるように頑張るからさ」

「斉藤くんが頑張らなくても、もう私、自分の気持ちに気付いたよ。斉藤くんのこと、好き・・・だよ」

「もう斉藤くんっての卒業してよ。俺の名前は啓太だから」

「けい、た。啓太。啓太」

「そんな連呼されたらこの腕、離せなくなる。俺、マジで優菜が好き」

私はハッと気付いた。ここは学校の昇降口。
こんな場所で抱きしめられてるって、恥ずかしすぎるよ。

「啓太、だめ。離して。ここ学校だよ。恥ずかしいよ」

「だーめ。そもそも俺の所に飛び込んできたの、優菜じゃん」

「そんなイジワル言う!仕掛けたのは啓太だもん。あんな風にカウントダウンするなんて、ずるいよ」

「それでも俺の所に来てくれた。ありがとう、優菜」