それは、三日前。突然として降り掛かってきた出来事だった。



私は二年前に、成人年齢である16歳を迎えると、天部衆の武官・韋駄天(いだてん)様の居城へと侍女として出仕した。

表向きは『淑女教育』とはいえども、父親からの命令。こんな末端の貴族が、より身分の高い一族との縁談を取り付けて社会的地位を盤石とさせるため、という政略的な意味合いもある。

どこぞの良いお坊ちゃまに見染められたら……という、父親の下心満載な命令だ。



だが、父親、鳩槃茶王の思惑通り。

私はどこぞの良いお坊ちゃまとの縁談を取り付けた。



御相手は、出仕先、武官・韋駄天様の嫡子。長男の朝霧様。

まさか、天帝様の側近である天部衆の一族の所縁の者とは、父の期待以上の話だ。

……別に下心があって近付いたわけではなく、互いに読書を好んでおり、特に好むこの天界の史実や神力の歴史について話が盛り上がり、自然とそういう関係になっただけだ。

そして、朝霧様と婚約関係となり一年が経ち、そろそろ挙式を……と、考えていた時期の事件だった。



昼の食事の際に、お仕えしている韋駄天様の令嬢・伽藍(からん)様が、食事を口にした途端、突然もがき苦しみ始め、意識を失ったのである。