「私が韋駄天城から要請を受けて、伽藍姫の処置に当たったのは、事件が起こった日の夕方です。『伽藍姫が侍女に毒を飲まされ、暗殺されかけた』と聞き、診察に当たりました。の、ですが……」



弥勒様はここで、一度息を呑んでから、また口を開く。

……そして、ここで。

私らのみが知る、この事件の真相を白日の下に晒すこととなるのだった。



とうとう、あの事実が。



「……伽藍姫が毒に侵されてはいましたが、『毒を飲んだ』という痕跡は見受けられませんでした」



城内は、一瞬の沈黙の後、ザワリと波打つ。

何のことを言っているのか理解出来ない、もしくは、もしや……と、続きの話を予測してしまったりと、様々な思惑が混じったどよめきが。

だが、そんな観衆の反応は構わず、弥勒様は話を続けるのだった。



「激しくもがき苦しんで意識を手放したとあろう状況から見ると、伽藍姫が侵された毒物は、即効性のある強い毒物であると推測しました。強い毒物となれば、その刺激性も強い。よって、経口摂取したとなれば、その毒物が通過した痕跡、口腔内や食道に爛れが起こるはず……ですが、伽藍姫の口腔内も咽喉も、傷付いた様子はなくお綺麗なままでした」