その時、真下から突然。男性の呼び掛ける声がした。
……まだ、人がいる?!
その呼び掛けに気付いたのか、黒い翼の彼は「おっ」と声をあげて、その翼をはためかす。
私を抱いたままグンッと急降下していく。
「きゃっ!」
「お、ごめんごめん。わははは」
突然の急降下に思わず声を漏らした私を、彼はまた笑いながら、木の枝にそっと足を降ろした。よく笑う魔族だ。魔族のイメージとはだいぶかけ離れている。
すると、足を下ろした木の麓から、カサッと気配がした。
「上から見た状況、どうなってんのよ」
幌馬車内に残してきた先の少女と同じ、黒のローブ姿の人が現れた。声の低さといい、ガッシリとした体の大きさといい、男性であることがわかる。
ローブから見え隠れするのは、体つきと同じく男らしい端正な顔立ち。
「わははは。もうちょいだな。ちょと待って」
「奇襲作戦はスピード命だろが」
「しゃーない。なんか知らんが聖威のヤツ、歌披露して登場しちゃってんだもん」
「はぁ?調子に乗ってんな……」
「カラオケ行きたいんじゃね?」
からおけ?……何それ?



