しかし、領主が裁定を下すのは、『領主が第三者的立場にある』という件のみ。

今回のように、韋駄天領で起こった事件でも領主が第三者立場にない、領主自身とその身内に関する裁定は、善見城管轄の法院が行うこととなっている。

理由としては、高位神族による私刑を防ぐため。

かつての時代は平民や身分下の神族を『賤しき者』と、奴隷同然に考える高位神族が多く、その利だけで罪もない命が理不尽に失われていった経緯からだ。

領主の下した裁定も、この法院に全て報告があがり、一つずつ内容を点検される。不当だと考えられる物は必ず指摘が入るという仕組みも作られているのだ。

……なので、今回の私の冤罪は、領主の城内で領主の身内に起こった事件だ。必ず善見城の法院が前に出てくるはず。

だから、当事者である韋駄天様の鶴の一声のような断罪も、調査官が来ないのも、刑の執行が早いのも全ておかしな話なのである。



「ほぉー。ざっくりしてんなー」

「これでも十分マシになった方だ。昔は天帝の『不敬だ!』の一言で即切り捨てられることが罷り通っていた時代だ。現在の天帝・帝釈天様がこの政策に乗り出さなかったら、今も変わらず高位神族の無法地帯の世界だった」