それに、夜叉王様だって愛妻家という話で、病弱の正妃を大切にしているという。

そんな噂が流れていたのに、他に御子を拵えてきたと聞いた時には、大人たちはびっくらこいたという話らしい。現在、この世界では禁忌である【魅了】の手に堕ちたのでは?とも。

しかも、その正妃が血の繋がらない姫を溺愛して離さないという噂にも驚いた。

なるほど。あの漆黒の馬車の行列は、この姫様のためのものだったんだ。



ふと見ると、観客の最前列には娘の勇姿を見守る夜叉王様の正妃と、長兄である夜迦様のお姿を見かける。

夜叉王様の正妃、夜叉妃・白楼様は必死に叫びかけていた。

「羅沙ぁっ!あまり無理しないでっ!もう降参でいいのよ!……ああっ!羅沙が怪我しちゃう!」

「母上、手合わせ中に降参しろとは不届きですよ。剣士の風上にもおけません」

「……夜迦ぁっ!羅沙は剣士じゃないわ、姫!私の可愛い姫なのよ!なのに、貴方が大会の参加を申し込んでしまうから!……あぁ、羅沙!頑張って!いや、もう降参でいいわ!」

「母上、どっちですか」

……あぁ、噂は本当のようだ。

取り乱しまくっている上、息子に冷静に突っ込まれているあたり、どうなんだか。