沙菜の右手が吸い寄せられるように電話の受話器を掴んでいた。沙菜は会社名と自分の名前を名乗り、電話の内容をメモに取ると社員に渡すを繰り返す。その沙菜の姿に始めは驚いていた社員達だったが、猫の手も借りたい気持ちだったためそのまま放置した。

 こんな誰とも分からない女が仕事をしているのに何も言わないここの社員達に沙菜はあきれつつも仕事をこなしていく。そうしていると、パソコンで計算が合わない個所を確認していた女性社員が悲鳴をあげた。

「無理!!わかんない。部長まだなの?」

 また電話が鳴り響く……沙菜は受話器を耳に当てながらパソコンの数字の羅列を確認していく。すると受話器から聞きなれた声が聞こえてきた。

「私、茂木と申します。見積もりと領収の合わない件で電話したものなんですけど……」

 この声もしかして……。

「……茂木さん?」

「えっ……もしかして土屋さんですか?キャー嬉しい。あっ、籍を入れたんなら土屋さんじゃないですね。仕事辞めたんじゃなかったんですか?」

「それがいろいろあって……それで悪いんだけど、詳しく教えてくれる?私でできることがあるならやっちゃうから」


 それから沙菜は女性社員からパソコンを借りて電卓を叩いていく。

 おかしいわ。どうして計算が合わないのかしら?

 あれ?これって……。


 沙菜はもう一度確認作業を行っていく。

 よし。これでOK。

 沙菜は本社にいる夏に電話をかけた。

「あっ、茂木さん?土屋です。今、先ほどの件のもの送ったんだけど見てくれる?」

「えっと、ありました。んー……合ってます大丈夫です。ありがとうございました。土屋さんがいてよかったー!またよろしくお願いいたします。あっ結婚式まだだって言ってましたよね?呼んでくださいね!!」

相変わらず元気な夏に沙菜も元気を分けてもらったような気分になる。

「ええ。こちらのミスすみませんでした」

 ふう。

 安堵の息を吐いた沙菜にそれを見ていた社員達から尊敬の目が向けられる。

「すごい!!ありがとうございました」

 頭を下げる社員達。


「スゲー!!」

「美人で仕事もできるとかヤバすぎ」