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 それからいろいろあり、沙菜と付き合うことができたんだよな。

 これもバカな畑中のおかげなのだが、お礼は言わない。

 しかもプロポーズの時まで畑中はいい仕事をしてくれた。可哀そうだがみんなの前で盛大に振られた畑中。あいつには良い薬になったに違いない。これからは心を入れ替え本当に愛する人を見つけてほしいと思う。

 
 今、俺たちは幸せだ。

 しかし、最近沙菜の様子が少し変だ。

 こっちに出向が決まり、プロポーズが成功した時は幸せそうに笑っていたが、こっちに来てからボーっとすることが増えている。

 俺も早く帰り、沙菜とゆっくりとした時間を過ごしたいのだが、なにせ問題のある会社だ。なかなかうまくいかない。夜は話す時間が持てないため、沙菜は朝の時間を大切にするようになっていた。俺も同様で朝の時間を大切にしていた。

 
 それにしても今日の朝は幸せだった。

 起きてほしいと体を揺すってくる手から魔法によるヒールでも出ているのか?と思うほど、沙菜の手や声は心地よい。

 疲れているからもう少し寝かせてあげたいとぼそりと言う声が聞こえてくる。まどろみの中でいつの間にか沙菜の膝に頭を乗せ、膝枕されていた。

 沙菜の匂い。

 最高に癒される。

「蒼士さん、起きてください。朝ですよ」

 耳元でそう囁かれ、まどろみの中にいた頭が一気に覚醒する。

 そして沙菜からのキス。

 チュッと短いキスは可愛らしいが、足りない。

 俺は沙菜の頭を引き寄せキスをねだる。

 真っ赤になった沙菜の可愛い顔。

 こんな顔をされてキスだけで我慢できるのか。沙菜のとろける顔。このままベッドで幸せな時間を過ごしたいが、沙菜に促されてベッドから出る。

 沙菜が少し怒りながら「遅刻しますよ」と言ってきた。怒っていても可愛い沙菜。

 その後は本当に遅刻しそうになり慌てて出社した。

 

 出社してから黙々と仕事を進め、もうすぐ昼休みという時間、営業から二人の社員が帰ってきた。

「「戻りました」」

 二人から本日の成果を聞き昼休みに入るよう指示をする。

 デスクに戻りながら二人が楽しそうに話をしているのが聞こえてくる。

「受付にいた人、美人だったよな。うちの会社になんの用事かな?」

「ああ、さっきの?」

 二人は外に昼食を取りに行くらしく、オフィスを出ようとしたところで「うあっ」と声を上げた。

 一体何をさわいでいるのだ?と、俺は声のした方へ視線の移すと扉の向こうから可愛らしく顔をのぞかせた沙菜がいた。

 「さっ……。沙菜!!」

 みんなの視線が蒼士に集まった。