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 金曜日の夜。飲み会に誘われた。いつもなら断るところだが、今日は沙菜も行くという。

 嫌な予感しかいない。

 しっかりしているように見える沙菜だが案外に無防備で抜けているところがある。

「わかった。行く」と答えれば沙菜が嬉しそうに笑った。

 くそ可愛いな。

 二時間の飲み会がお開きになると、嫌な予感は当たる。

 沙菜が男性社員にお持ち帰りされそうになっている。俺は無意識にオーラを放つと男性社員達に権勢した。

 沙菜に近づいたら殺す。そんな殺気を放つと、男性社員達は素直に帰って行った。

 二人きりになると沙菜が「蒼士さん」と呼んでくる。

 言ってもいいだろうか?俺も沙菜と呼びたいと……。

 俺は両手を握りしめると、ぼそりと呟いた。

「沙菜……」

 顔を真っ赤に染め驚いた顔をした沙菜が目の前にいる。そんな沙菜に沙菜と呼びたいと話せば、コクコクと頭を上下に動かしてきた。

 OKと言うことなのだろう。

 俺はもう一度沙菜の名前を呼んだ。

「沙菜……」

 すると名前を呼んだだけで真っ赤になってしまう沙菜の姿に俺は悶絶していた。

 そして思う……。一週間前よりずいぶん元気になった沙菜。これからは俺が彼女を守りたいと。


 *


 三週間が過ぎたころ、特にこれといって事件も起こらず安心していた。変身した彼女の元に畑中がやった来るのではと、内心冷や冷やしていたが、そんなことはなかった。

 あいつの中で沙菜はどういう立ち位置なのか?

 そんな時、沙菜が営業部に行ってくると言ってきた。

 心配していると沙菜は畑中に嫌なことを言われたらまた慰めてくださいねと微笑みながら言ってくる。

 相変わらずくそ可愛いことを言ってくる。

 くそっ。俺は沙菜の後姿を眺めながら顔を赤くしていた。それを誰にも気づかれないようにデスクに顔を伏せ髪の毛を掻きむしった。

 それから十分、帰ってこない沙菜が気になってしょうがない。俺はトイレに行く振りをして営業部へと向かった。

 嫌な予感しかしない。

 俺は足早に営業部に行ってみるが沙菜の姿はなかった。いったいどこへ……。

 階段から話し声が聞こえてくるため覗いてみると、震える沙菜を畑中が抱きしめていた。それを見た瞬間頭に血が上るのを感じた。

 俺の沙菜に触るな。

 人に対してこれほどの独占欲を覚えたことはない。

 俺は畑中から沙菜を奪い返した。それを見た畑中は恋人同士の痴話げんかだと言ってきた。

 恋人……。
  
 今度は畑中が俺から沙菜を奪い返そうとしていた。それを拒否した沙菜が「いやー」と声を上げた。

 俺は言うならここしかないと思った。

「沙菜……行くな。ここにいろ、俺が守ってやる」

 沙菜は俺にしがみついたままコクコクと頷いた。

 良し。

「お前に沙菜は渡さない」

 そうだ、こんな奴に沙菜は渡さない。