「土屋さん本当に知らなかったんですかー?」

 帰り際、沙菜は夏に呼び止められ詰め寄られていた。

「本当に知らなかったのよ。私だって驚いているんだから」

 じとーっと見つめてくる夏の視線から目を逸らす。

「それで今日はどうするんですか?一緒に帰ったりするんですか?」

特に約束はしていないけれど、確かに今後のこととか話したいことは沢山ある。

沙菜と夏の会話が聞こえてきたのか蒼士が二人の元までやって来た。

「俺も今日はこれで仕事を終わりにするから一緒に帰ろう」

「あーラブラブですね」と夏が茶化すと蒼士が嬉しそうに前髪をかきあげ微笑んだ。そこには綺麗に整った顔があった。それを見た女性社員から「キャーーッ」と黄色い悲鳴があがる。

「見ちゃダメーー」

 沙菜は慌てて蒼士の前髪を下ろし、その顔を自分の胸に押し付けて女性社員から見えないように隠した。独占欲を丸出しにした沙菜と、その胸に抱かれ嬉しそうにしている上司の姿を皆が羨ましそうに見つめた。

 そして彼女彼氏がいない社員達は思った。

 はーー。

 パートナーがほしいと……。