その声の主はほかの誰でもない。王である鉄平だ。
全員が身を凍らせるようにその場に固まる。

「我が姫に触れるとは何事。この罪は重いぞ。」
私を押しのけた兵士に冷たく言い放つと、鉄平は私の体をすぐに起こしてくれた。

「医軍!すぐに菊姫の処置にあたるように」
きっと鉄平は疲れているはずだ。それでも威厳を示す声で、指示を出す。

「けがはないか?」
威厳のある声を持つ人とは別人のような優しい声で私の顔を覗き込む鉄平。

「私よりも菊姫が・・・」
「そうだな。手当が先だ。しかしこの天気と暗さでは何も見えん。菊姫の御殿に運ぶのはどうだ?」
「そうしましょう。でも絶対に乱暴にしないで。」
私はすぐに菊姫の体に近づき、短剣が刺さっている場所を確認した。
「さらに出血を増やさないように、できるだけ動かさないように運びましょう。」
私の言葉に医軍が従う。きっと鉄平が視線か言葉でそう指示をしてくれたのだろう。