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「…小夏?」

「…あ、なんか1年前のこと久しぶりに思い出しちゃって」

「…ああ、5年付き合った彼氏にフラれて大号泣してた時な」

「…なんかそれ、もうちょっとオブラートに包んでもらってもいいですか」

むぅ、と膨れっ面でイチさんを見ると、ふ、とまたイチさんの口角がゆるゆると上がり、空気が揺れる。
そして膨れた頬は、壁1枚隔てた向こう側から伸びて来たイチさんの手によって潰され、その拍子に私の口からぷっ、と空気が漏れた。

「事実過ぎてオブラートに包みようがないんだけど?」

瞳に少し面白がっている色が浮かんでいる。
イチさんの僅かな変化に気づけるのは、もはや私の特技になりつつある。

「あの日は、私の中ではイチさんの表情筋が死んでないと分かった日に、もはやすり替わってますから」

頬を片手で挟まれたまま、ふふん、としたり顔でイチさんを見れば、ゆっくりと眉間に皺を寄せて、挟んだままの私の頬をさらにぎゅっと潰した。