吐息にイチさんの名前をなんとか乗せてみるも、それは全く意味を成さなかった。
余計に激しくなる。
イチさんの胸をグイッと押してみるもびくともしない。

頭も身体も甘く痺れて、ついに辛うじて持っていたビールの缶はボトっと床に落ちた。
しゅわしゅわしゅわ、とキスの音に絡む。

「…小夏、悪いけど、今日はもう帰せない…」

そっと唇を離し落ちた缶を拾いながら、今までに見たことのない熱を帯びた扇情的な表情で、たった今まで私を貪っていたその唇でイチさんは苦しそうにそう呟いた。

身体の奥がきゅう、っと鳴った。

…ダメだ、このままじゃ流されてしまう…

でも、例え好きじゃ無くてもいい。
その場の勢いだけだったとしても、私はベランダの壁1枚隔てた関係からもう抜け出したかった。