「だから小夏、家の鍵を出しなさい」

「…はい⁉︎」

だから、という接続詞の使い方、絶対間違ってる…

「かーぎー!」

痺れを切らした真帆が私に向かって手のひらを差し出してくる。

「や、鍵、持ってきてないし!ランチに出る時はお財布とスマホしか持ってきてないし!」

ちっ。

目の前の大和撫子から舌打ちが聞こえた。

「…こわ…!っていうか、何で鍵⁉︎」

「鍵を失くしたことにして、ベランダの君の部屋に泊めてもらうのよ」

「…ええーっ⁉︎」

予想だにしなかった答えに、お昼時でざわざわ賑わうこじんまりした店内に私の素っ頓狂な声がやけに響く。
視線が痛い…
すいません…と小声で謝りつつ、

「真帆、言ってること無茶苦茶…」

真帆に抗議する。

「全然無茶苦茶じゃない!自分の家に引きずり込めないなら、相手の家に入れてもらうまで!ただ小夏にはハードル高いから、鍵を失くしたという口実を与えてあげようと思っただけ!」