「産まれる前から?」
「まあ。なるべくなら、早めにお前に決断をしてほしい。
できれば、前向きに検討してもらいたい。
いいか、お前の決断1つで1人の命が左右されるんだ。
その人と、真剣に考えて決断をしてくれ。」
ずるい…。
今更、そんな言い方。
今まで、私のことを家族に思ってくれていなかったのに。
自分が、命の危機に陥ったら私に助けを求めるの?
そういう時だけ、私を必要とするわけ?
そんなの…。
勝手すぎるよ。
「ふざけないで…。」
私は、テーブルを両手で叩き立ち上がっていた。
「今更、何なの?
ふざけるのも、いい加減にしてよ!
母親が、病気?
移植が必要?
ふざけないで!
私は、ずっと前から1人だった。
1人で、生きてきたの。
そんな母親のことなんて知らないし、あなたも私とはもう関係ない。
今更、助けてくれなんて…
自分達の、都合のいいことばかり言わないでよ!」
病気が、母親を苦しめているのであればそれは私に対する何かの罰なんじゃないの?
私のことを置いて、出て行ったくせに。
勝手に、苦しんでいればいい。
どうにでもなればいい。
私に、母親なんていない。
家族としての縁を切られたのに、今更どうして私を宛にするわけ?
自分でも分かるくらいに、喘鳴が聞こえていた。
呼吸が苦しくて。
胸が、熱くて。
涙も止まらず、私はどうしていいのか分からずその場にズルズルと座り込んでしまった。
きっと、湊に幻滅されたかもしれない。
命の危機にある生みの親に対して、酷い言葉をぶつけているのだから。
だけど。
嫌だよ。
私だって、そんなに大人になんてなれない。
許すことなんてできない。
この人も。母親も。
「星南。1回、吸入しよう。なっ。」
湊は、私の背中を優しく包み込み震える手を抑えながら吸入をさせてくれた。
私のことを見る、優しい眼差しは何ひとつも変わっていなくて、私は思わず湊に抱きついていた。
湊の全てに縋るように。
ただただ、湊に強く抱きついていた。
湊は、そんな私を見て何も言わず背中を小さい子供を宥めるように撫でてくれていた。
「申し訳ありませんが、今回はここで失礼してもよろしいでしょうか。」
湊はそう言うと、私を抱き上げ立ち上がっていた。
「…ったく。取り乱してんじゃねーよ!時間の無駄だな。
いいか、次会う時までにそれにサインをしておけよ。」
最後のトドメを刺すかのように、兄の吐き捨てた言葉が私の心に突き刺さっていた。
それから、湊に抱きしめられながら安心出来る湊の車の中へ戻った。

